地球生命研究所(ELSI)の野村龍一研究員は、今年度4つの賞(SPRUC 2014 Young Scientist Award、SPring-8萌芽的研究アワード、井上研究奨励賞、手島精一記念研究賞)を受賞しました。
野村研究員は、2014年3月に東京工業大学大学院理工学研究科博士課程を修了し、同年4月からELSIでの研究活動を始めました。博士課程から理工学研究科地球惑星科学専攻の廣瀬敬教授(現ELSI所長)の研究室に所属し、高圧地球科学の実験的研究を行ってきました。
実験では、ダイヤモンドアンビルセルとよばれる直径5センチメートルほどの装置を使って、地球深部の圧力温度に相当する超高圧高温の環境を作り出します。地球の中心は約360万気圧、摂氏5000度にもおよびます。その状態を作り出すために、2つのダイヤモンドで試料をはさんで高い圧力を加え、レーザーをあてて加熱します。例えばよく行われている手法として、その上で試料をX線で観測し、結晶構造や体積密度から、その圧力温度状態に相当する地球がどんな様子なのかを予測します。
現在の地球は表面から、地殻、マントル、液体コア(外核)、固体コア(内核)の層構造をとっています。現在のマントルはほぼ全域が固体ですが、約46億年前に地球が誕生したときは、マグマオーシャンと呼ばれるドロドロに融けた液体岩石の海が地球表層から深部にかけてひろがっていました。その後、10億年ほど前まではまだ大量の液体が残っていたと考えられています。さらに地球が冷えていくに従ってマントルは固まり、現在の状態になりました。
野村研究員は地球の歴史、特に原始マントルの化学進化(固化)に注目し、マントル物質に圧力と温度をかけて融かし、従来のX線回折測定に加え、様々な化学分析を行いました。
マントルの成分は、鉄やマグネシウム、ケイ素などです。まず行ったのは、マントルの主成分である鉄とマグネシウム、ケイ素だけの試料に圧力を加えて、高温で融かす実験です。マントル物質を融かしていったところ、深さ1800キロメートルに相当する圧力付近で固体マントルの鉄成分が少なくなる一方、融けたマントル(マグマ)に鉄が入り込み、マグマが重くなる現象が起きました。このマグマは固体マントルよりも重く、マントルの底へと沈んでいきます。原始地球では、それがマントルの底に沈むマグマの海として存在していた可能性が高いことがわかったのです。このマグマの海が冷え固まることで、地震波観測から予想されていたマントル深部の化学不均質構造をうまく説明できます。この研究成果は2011年Nature誌に掲載されました。
さらに、実際のマントル物質により近づけた試料を使ったところ、マントル物質は予測されていた温度よりはるかに低い温度で融けはじめることがわかりました。現在のマントル最下部は固体であるため、そこでの温度はマントル融け始めの温度よりも低くなければなりません。この結果はマントル最下部やその下にある液体コアの温度が従来予想されていた温度より低いことを意味します。さらに、外核は液体であるため、コアの融点も予測より低いことを意味します。
野村研究員は、外核(液体コア)の融点低下は、コアに水素原子が入り込むことで実現できると考えました。その水素量は水に換算すると地球の海水の約80倍。大量の水素は、地球形成時に獲得したものと推定されます。この研究成果は2014年Science誌に掲載されました。
野村研究員はELSIで、引き続きマントルやコアを中心に、原始地球の全球的進化について研究を進めています。大学院時代は鉄・マグネシウム・ケイ素といった主要成分で実験を行いましたが、隕石に含まれるような微量元素を新たに試料に足して実験を続けています。高圧実験が予言する原始地球内の微量元素分布と、ELSIの地質学研究チームが持つ情報と照らし合わせることで、実際に地球がどのような歴史をたどってきたのかを実証論的に解明することができると考えています。