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研究ハイライト

地球コアに多くの水素が存在〜地球誕生時に大量の水〜

国立大学法人 東京工業大学
公益財団法人 高輝度光科学研究センター
国立大学法人 京都大学

概要

東京工業大学大学院理工学研究科博士課程 野村龍一と同 地球生命研究所 廣瀬敬教授らは、高輝度光科学研究センター、京都大学、海洋研究開発機構と共同で、地球コアに大量の水素が存在することを突き止めた。このことは、惑星形成時に地球は大量の水(海水の80倍)を獲得したが、その大部分がコアに取込まれたことを意味する。
同研究グループはマントル物質を地球深部に相当する超高圧・超高温環境下に置いた後、融解の痕跡の有無を大型放射光施設SPring-8(スプリングエイト)にて確認することにより、コア直上のマントルの融解温度は約3600ケルビンであることを明らかにした。マントル最下部は固体であるため、コア最上部の温度はそれ以下でなくてはならない。これは従来の見積りよりも少なくとも400ケルビン低い。一方、そのような低い温度で、コア(外核)は液体でなければならない。それには外核に水素が重量にして0.6%(原子数換算で25%)程度含まれている必要がある。このような大量の水素は、地球形成期にマグマオーシャン中で金属鉄中に取込まれた可能性が高い。今回推定されたコア中の水素量は水に換算すると地球全質量の1.6%(海水の約80倍)にあたり、地球はその形成時に大量の水を獲得していたことがわかる。今後のさらなる研究により、地球以外の天体の金属コアの組成、地球の水の起源、さらには太陽系外惑星の海水量推定などが大きく進むと期待される。

今回の成果は、米科学誌「サイエンス」に掲載される【「サイエンス エクスプレス」にて1月16日(日本時間17日)にオンラインで先行出版】。

1.背景
地球は深さ2900 kmを境に、岩石で構成されるマントルと鉄合金で構成される液体コア(外核)に分けられている。下部マントルは固体であることから、マントル物質の融解温度は下部マントルの温度に上限を与える。さらに、マントル直下に位置する外核の温度もそれ以下である必要がある。一方、外核は液体であるため、その温度はコア物質の融解温度よりも高い必要がある。鉄合金の融解温度はその不純物組成に大きく依存することが知られており、外核の温度はその化学組成を制約する。このように、マントル物質の融解温度を知ることは、地球深部の温度構造ならびに化学組成の推定に大きな役割を果たす。しかしながら、融け始めの温度を超高圧下で決定することが技術的に困難であったため、マントルの融解温度はこれまで過大評価されていた。

2.成果

本研究グループは、これまでレーザー加熱式ダイアモンドアンビルセル(図1)を用いた超高圧・超高温実験技術の開発を精力的に進めてきた。この技術を利用して、マントル最下部層の主要鉱物ポストペロフスカイト相の発見、地球中心環境下における鉄の結晶構造の決定など、高圧地球科学の分野で大きな成果を挙げてきた。

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図1:超高圧発生用ダイアモンドアンビル装置。
マントル物質を二つのダイアの間に挟み、超高圧下でレーザーを照射することにより超高温を発生させる。

今回、同グループの超高圧超高温発生技術と大型放射光施設SPring-8の高輝度X線を利用した高解像度マイクロトモグラフィー(CT)撮像技術を組み合わせることにより、融解時に見られる特徴的な構造を微小試料内部に観察することに成功した(図2)。これにより、超高圧下における少量の融解液の形成を確認可能となり、マントル全域にわたって正確な融解温度(融解が始まる温度、ソリダス温度)の決定に成功した。

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図2:高圧高温実験後に得られた、試料内部のX線CT画像
左の画像で明るい部分は、マントル物質が部分融解して出来たメルトを示す。部分融解液は酸化鉄に富むため、7 keVと8 keV(キロ電子ボルト)の2つのエネルギーのX線で撮像した2つの画像のコントラストが大きい。酸化鉄に富む部分の有無で、試料が融解していた(左)か、していなかった(右)か判断できる。スケール(白い棒)は5ミクロン。

その結果、マントルの底におけるソリダス温度は約3600ケルビンと、過去の研究よりも600ケルビン以上低いことが明らかになった(図3)。また、マントル最下部は固体であるため(地震学からマントルの底に液体の存在が示唆されているが、その存在はきわめて局所的であり、マントル中の低融点物質に起因すると考えられている)、コア最上部の温度も3600ケルビン以下である必要がある。これは従来のコア温度の推定値より少なくとも400ケルビン低い。

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図3:地球内部の温度分布(黒)とマントル・コア物質の融解温度
マントルは固体であるため、今回決定されたマントル物質の融解温度(緑)はコア最上部の温度の上限を与える。外核が液体であるには、大量の水素がコアに含まれている必要がある。

一方、外核は液体であるため、外核最上部の融解温度は3600ケルビン以下でなくてはならない。純鉄の融解温度はコア最上部でおよそ4200ケルビンである。すなわち外核中に不純物が存在することによって、その融解温度は600ケルビン以上下がっていることがわかる(図3)(地震学的観測から、外核の密度は鉄ニッケル合金の密度より10%程度小さいことがわかっているため、多くの軽元素を不純物として含んでいるとされている)。そのような大きな融点降下は、硫黄や酸素では期待されない(図3)。代わりに、水素は大きな効果を持つことが知られている。従って、別の地球化学的考察から必要とされるシリコンに加え、コアには重量にして0.6%(原子数換算で25%)の水素が含まれていることがわかる(図4)。

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図4:地球の断面図
浅い部分から地殻(濃い灰色)、上部マントル(薄い灰色)、下部マントル(白)、コア(水色)。地球が形成時に獲得した水の大部分は還元されてコアに取り込まれた。コアの水素量を水に直すと海水の約80倍に相当する。

地球の形成期、地球はマグマオーシャン(マグマの海)で覆われていたとされる。そのようなマグマオーシャン中で以下の化学反応が起こることにより、

水(マグマ)+ 金属鉄(コア) → 水素(コアへ)+ 酸化鉄(マグマへ)

水素がコアへと取込まれたと考えられる。すなわち、コアに0.6重量%の水素が入るためにはマグマオーシャン中に大量の水(地球全体の1.6重量%)が必要である。これは海水量(その質量は地球全体のわずか0.02重量%)の80倍に相当する。すなわち、惑星形成時に地球は大量の水を獲得していたが、その大部分がコアに水素として取込まれた可能性が高い。

3.今後の展望
今回の成果で地球コアに大量の水素の存在が明らかになったが、海を持たない他の太陽系地球型惑星であっても同様のことが考えられる。また、地球がどのように海水の80倍もの水を獲得したのかを理解することも重要である。
地球における生命の誕生と進化には、海水の量が大きく関係していた可能性がある。地球の海の質量は地球全体のわずか0.02重量%に過ぎない。海水量がわずかであることにより、地球表層には海と陸が共存し、多様な環境が存在している。また生命にとっての必須元素であるリンやカリウムは、主に大陸の岩石の風化によって供給されている。海と陸の共存が、生命の誕生と進化に関してどのような役割を果たしたのか、さらに詳しく調べる必要がある。
また、太陽系外において、現在までに1000個を超える惑星が発見されている。そのような系外惑星の海水量の推定を可能にすることが、宇宙における生命惑星の普遍性の理解につながると期待される。

【関連リンク】
サイエンスHP(英語)

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東京工業大学 地球生命研究所
廣瀬 敬(kei_at_elsi.jp) 野村 龍一(筆頭著者、nomura.r.ab_at_m.titech.ac.jp)
TEL: 03-5734-3528 FAX: 03-5734-3416
高輝度光科学研究センター
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TEL: 0791-58-0833 FAX: 0791-58-0830
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