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地球内部の海を探す

岩石でできた地球のマントル内部には、これまで考えられていたよりも深いところに、海に匹敵する量の水が存在しているようだ。

 地球内部に、海に匹敵する量の水が存在する可能性のある場所が見つかった1,2。東京工業大学 地球生命研究所(ELSI)の研究者たちは、地震波を解析したり、ダイヤモンド・アンビルセルを用いて岩石に想像を絶する高圧をかけたりして、地球内部の「水の貯蔵庫」がある領域を特定した。

 地球は、極端に乾燥した惑星として始まり、彗星や小惑星が衝突することによって初めて海が出現したと、長年にわたり考らえてきた。けれども近年、マントルと核内の鉱物が分析されるようになると、おそらく地球の海水の何倍もの量の水が、地球内部に存在していることが明らかになった。地震学者たちは、沈み込むプレート(スラブ)が海水を地下深部に引き込んでいる環太平洋火山帯沿いの海底で、含水物質を見つけようと試みている。

 初期の報告は、深さ400600kmの遷移層と呼ばれる領域に水の貯蔵庫がある可能性を示唆していた。この領域のマグネシウムケイ酸塩鉱物は、大量の水を保持できる結晶構造を持つ。ある見積もりによると、その総量は地球の海10個分に相当するという。しかし、水がどのようにしてこれほどの深さまで運ばれるのか、そして、地表に戻ってくることはあるのかという問題がある。

 ELSIChristine Houser助教は、「この鉱物相により水を遷移層まで運ぶことができたとしても、そこにとどまっているかは分かりません」と言う。「どのくらいの量の水がマントル内に蓄えられているのかも分かりません。その量が海1個分なのか10個分なのかによって惑星形成モデルは大きく変わってきます」。

 Houser助教は地震学的イメージを用いて、沈み込むプレートが遷移層を通過して下部マントルに到達していることと、ホットスポットで高温の物質が地表に向かって上昇していることを示した。岩石に捕らわれて地球を循環する水は、最終的には上部マントルや下部マントルではなく遷移層に捕捉されるようである。

 Houser助教が地震学的手法を用いて遷移層の水を探しているのに対して、その同僚である土屋旬准教授は、最近、水をさらに深いところまで運ぶことができそうな鉱物相を発見した。土屋准教授は、量子力学の基本原理に基づく第一原理計算法を用いて高圧条件下における鉱物シミュレーションを行い、下部マントルで水を保持することのできる可能性のある新たな含水マグネシウムケイ酸塩鉱物を見つけた。海を満たすほどの水が存在する場所として、下部マントルは予想外だった。この発見はGeophysical Research Lettersに発表された。

 同じくELSIの研究者である西真之助教は、土屋旬准教授のシミュレーションにより発見された含水鉱物を、マルチアンビルセルを用いて実験室で確認した。西助教は、この含水鉱物には大量の水が保持されていて、1250km以上という驚くほどの深さに到達する可能性を指摘した。この研究はNature Geoscienceに発表された。

 「これから私は、下部マントルにあると考えられるこの鉱物相の地震学的特徴がどのようなもので、いかにしてそれを探すかを考えていきたいと思います」と、Houser助教は言う。

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地球深部の水の循環では、沈み込むスラブが、地球表面の水を含水鉱物の形でマントル内に輸送している。水は火山活動により表面に戻ることができる。

クレジット:Reprinted by permission from Macmillan Publishers Ltd: Nature Geoscience (ref3), copyright (2015).

【図中文字】

大陸(Continent)、火山島(Ocean island volcano)、島弧火山(Arc volcano)、上部マントル(Upper mantle)、メルト(Melt)、沈み込むスラブ(Subducting slab)、遷移層(Transition zone)、プリューム(Mantle plume)、下部マントル(Lower mantle)、苦鉄質岩の水和が進行(Progressive hydration of mafic rocks)、D層(Phase D)、H層(Phase H)、外核(Outer core

【参考文献】

1. Tsuchiya, J. First principles prediction of a new high-pressure phase of dense hydrous magnesium silicates in the lower mantle. Geophysical Research Letters 40, 4570-4573 (2013). doi:10.1002/grl.50875

2. Nishi, M., Irifune, T., Tsuchiya, J., Tange, Y., Nishihara, Y., Fujino, K. & Higo, Y. Stability of hydrous silicate at high pressures and water transport to the deep lower mantle. Nature Geoscience 7, 224-227 (2014). doi:10.1038/NGEO2074

3. Nishi.M. Deep water cycle: Mantle hydration. Nature Geoscience 8, 9-10 (2015) doi:10.1038/ngeo2326