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EON-ELSIウィンタースクール開催報告

昔から多くの研究所や大学、または科学振興団体が学生を集めて特定の技術やトピックに関するショートコースや集中講座等を開催している。こうしたコースに参加することは、専門分野を深く研究したり、同じ分野で研究するほかの学生や研究者に会えたりするだけでなく、全く違う分野でも共同研究を始めるきっかけとなったり、さらには、主催研究所をよく知ることにもなるので大変貴重な機会である。

2018年1月22日から2月2日まで、東京工業大学大岡山キャンパスにおいてEONプロジェクトとELSIが共同で企画運営された集中コースが地球生命研究所(ELSI(エルシィと発音する))で開催された。
世界中で様々な似通ったコースがある中で、我々は、他とは全く違うことを提供したいと考えた。それが、「EON- ELSIウィンタースクール」の開催だった。

私は、企画担当のメンバーの一人として、ウィンタースクールプロジェクトに最初からたずさわった。
まず、開催期間を2週間と決め、その期間内に「生命の起源」についてゼロから学べるウィンタースクールの講習内容を検討していくところから始めた。メンバーの間で多く話し合ったポイントは、
・どうすれば、このウィンタースクールを特別なものにできるのだろうか?
・他機関が主催するものとどう差別化をはかるべきか?
の2点だった。

EON WInter School.jpg

Active learning in the classroom
Photo Credit: Nerissa Escanlar

「生命の起源」を研究する我々の一番の強み、キーワードは、「interdisciplinarity」(多分野にまたがる研究)だ。

ELSIは、天文学、惑星科学、地球力学、地震学、鉱物物理学、地球化学、電気化学、システム化学、prebiotic chemistry, 生化学、分子生物学、バイオインフォマティクス、合成生物学、システム生物学、進化生物学、微生物学、AI、複雑系科学等々、多分野から地球と生命について、並びに「生命の起源」について研究している機関だ。
「生命の起源」に関する問いは、一つの分野だけの見解だけでは解くことができない。多分野において研究している研究者が集まり、それぞれの分野から問題を解いていくということがELSIのユニークな研究方法であり、それが最大の強みである。
そのため、ウィンタースクールの講師にはまったく困らなかったが、更に詳しい内容にするため、東海大学の大場先生やアリゾナ大学からも数名の講師を招聘した。

EON WInter School 2.jpg

Exoplanetary database project
Photo Credit: Nerissa Escanlar

セミナーや講義の内容は、大変興味深く重要なものであるが、誰かの研究に直接適用することはできないことが多い。通常は、教室で紹介されたアイディアは、参加者それぞれの頭のかた隅で受動的に反芻され、グループワーク等を通じて、各々の新たな考え方となることが多い。このため、私たちは短期間に実践的なプロジェクトやチュートリアル講義を取り入れることにした。 このようにして、参加した院生は2週間の中で何かを実際に学ぶことを可能となるのだ。

EON WInter School 3.jpgStudying the geology near the Kannawa Fault
Photo Credit: Tomohiro Mochizuki

そして、私たちELSIに在籍する研究者たちが最も恩恵を受けているものであり、海外の研究機関勤務の研究者が簡単に触れることができないものそれは日本そのもの。日本国内各地でみられる美しい、力強い自然の光景である。 日本は地質学的に多様であり、参加した院生が日本独特の地質学的特徴を見学できるよう1週間弱のフィールドトリップを企画した。ELSIに在籍する地質学、火山災害等の専門家による特別講義を受けながら、温泉、間欠泉、プレート境界、火山などを勉強し、さらには東工大内にある「ロック」ミュージアム訪問も計画した。


EON WInter School 4.jpgTaking microbial samples from the hot spring at Mine Onsen
Photo Credit: Kazumi Yoshiya

いよいよ公募の時期となり、募集を締め切ったところ、驚くことに世界各国、6大陸から、当初期待していたよりもはるかに多い227件の応募が寄せられ、その中には南極で研究を行っている院生からの応募もあった。また、ほぼ半分ずつの男女比率という、理想的な割合であり、最終的には、参加者の研究内容に対して新しい考え方を提供できるであろうという適正を考慮したうえで34名の参加者が採択された。さまざまな研究分野(生命科学、地球科学、物理学、さらには学校の理科の教員まで)からの多様な分野グループと、日本、米国、フランス ドイツ、イギリス、ブラジル、韓国、インド、オーストラリア、タイ等の研究所に所属する院生、ポスドクたちが集まった。さらに、何人かの参加者の出身国は研究機関の所在地とは異なっており、期待をはるかに超える多様性の高いグループとなった。約15倍という難関を突破した参加者は全員がEON-ELSIウィンタースクールの精神をしっかりと理解しており、野外活動、座学とプロジェクトワーク、そして幅広い数々のセミナーに熱心に参加した。

セミナーでは、実際に生物学者が現在研究している地球のマントルの動きについて、地質学者が水中熱水系のメタゲノムについてなど、参加者に難問を投げかける等、とても興味深い場面が多く見られた。また、通常は惑星形成を模擬する研究者が初めてラボに入り、自分の鼻から採取した細菌を育てる経験をするというユニークなエピソードまで生まれた!

EON WInter School 5.jpgMany engaging discussions between the instructors and students took place after the seminars
Photo Credit: Nerissa Escanlar

ウィンタースクール終了後、参加者それぞれが所属する研究所や大学に戻り、自分の研究に戻った時、特に地球生命科学の重要な問いを解くための学際的研究の重要性を理解しする一助となり、それぞれの研究に深み持たせる糧となっていれば非常に嬉しいことだ。専門知識の幅だけでなく、それぞれの人が貢献したユニークな文化的洞察のおかげで、この2週間で培った国際的な研究者ネットワークは、一人ひとりの将来にとって大きな財産になるだろう。このネットワークを維持し続けていくことで、彼らは互いに協力しあう機会を作り、新しく、輝かしい未来を切り開いていってくれることを、この企画に最初から携わった主催者の一人として願っている。

EON WInter School 6.jpgPhoto Credit: Natsumi Noda

EON WInter School 7.jpgPhoto Credit: Nerissa Escanlar

― 地球生命研究所研究員Tony Jia(生物学)