2016年1月12日(火)、東工大くらまえホールにて、第4回ELSI国際シンポジウム一般向け講演会「宇宙に生命を探して - Does water define a planet's habitability? -」を開催いたしました。ELSIでは、年1回国際シンポジウムを開催しており、国内外から地球と生命の起源と進化に関わる研究者たちが大勢集まります。一般向け講演会は昨年度から始まったもので、ELSIの研究やこの分野の最新の話題について分かりやすくお伝えするために行っています。今回の講演会では募集定員150名を超えるお申込みをいただき、会場は満席となりました。講師には東工大地球惑星科学科の臼井寛裕博士と、ワシントン大/NASAのヴィクトリア・ミードウズ博士をお招きし、同時通訳を利用して外国人日本人問わずに講演を聞いていただきました。臼井博士は「火星の水の歴史」について、最新の火星研究によって得られたデータを用いながら話しました。
臼井博士はまずはじめに、観客にいくつかの天体の図を見せて、その中から火星を選ぶという作業をさせました。実際は全ての図が別々の年代の火星を表したものでした。火星は環境の変動が激しく、どろどろのマグマのかたまりであったり氷河で覆われていたりと、過去にはさまざまな姿をしていたと考えられています。火星の気候変動の歴史を読み解くには、岩石の調査が有効です。火星の探査が進んだことで、火星の岩石に残された水の跡やそこから川の流れの強弱なども分かります。実際に過去には火星には海が存在し、出来ては消えを繰り返していたことも分かりました。臼井博士は主に火星の隕石の研究をしています。隕石に含まれるガスの組成が、実際の探査機で測った火星大気の組成と一致することから、その隕石が火星から来たことが分かります。火星の隕石を調べることで、当時の火星の環境を読み解くことができます。最近の研究で、春夏には液体の塩水がクレーターに染みだしてきて秋冬になるとまた地下に消えていくという現象が発見されました。この季節性の水が流れた跡が火星のあちこちで発見されています。この発見により、火星の地下にはいまでも液体の水が流れているのではと考えられるようになりました。火星はこれから有人探査の時代を迎えます。その探査により、火星に過去生命が存在していたのか、あるいは今でも生命が存在しているのか、地球外生命の研究が大きく進むかもしれません。また、日本では2022年スタートの火星の衛星フォボスのサンプルリターン計画が進んでいます。臼井博士もこの計画に参加予定で、火星衛星の起源や火星の形成や水の起源などを明らかにすることを目指していると目標を語りました。ヴィクトリア・ミードウズ博士は、太陽系外惑星の生命探査について話しました。NASAのケプラー望遠鏡はここ数年で1000以上もの系外惑星を発見しました。発見された系外惑星の多くは地球とは全く違った環境で、太陽系の天体とは違う動きをしていました。地球や太陽系天体とは違う系外惑星の観測を観測することで生命がうまれそれを育むための温度や水や大気の条件が分かれば、そこから地球は宇宙の中で特別な存在で地球にしか生命はいないのか、あるいは地球のような天体は宇宙にはたくさんあるのかといった、地球の特殊性と普遍性を知ることができるかもしれません。NASAが計画しているトランジット系外惑星探索衛星(TESS)では、今まで以上に広い範囲で系外惑星を探し、それらの質量、サイズ、密度などをより正確に知ることが出来る予定です。また、JWSTミッションでは、赤外線を用いて系外惑星の大気の化学組成を調べます。ミードウズ博士は、どういった天体が生命を育むのに最も適した環境なのか、また、生命が存在するとしたどのようなシグナルがあり、どうやってそれをキャッチするかを探りたいと語りました。一般講演会のテーマは国際シンポジウムの主題に合わせて決めており、今回は宇宙における生命の可能性やその探査についてをテーマとしました。シンポジウムの主題は毎年変えていて、来年はまた別のトピックを取り上げます。一般講演会でも最新の研究成果や話題をお話しする予定ですので、ご期待ください。