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研究ハイライト

太陽よりも低温な恒星をまわる太陽系外惑星を多数発見

要点

・トランジット法で低温な恒星を周回する太陽系外惑星を新たに15個発見
その中でも太陽系外惑星K2-155dは表面に液体の水が存在する可能性がある
低温な恒星まわりの惑星は太陽型恒星まわりの惑星とよく似た性質を保有

概要

東京工業大学 理学院 地球惑星科学系の平野照幸助教、宮川浩平大学院生(修士課程2年)、佐藤文衛准教授、同大学の地球生命研究所(ELSI)の藤井友香特任准教授らの研究チームは、NASAのケプラー宇宙望遠鏡による観測(K2ミッション)で取得したデータを解析し、さらに地上の望遠鏡での追加観測で、低温な恒星(M型矮星)を周回する地球の3倍以下のサイズの太陽系外惑星を新たに15個発見した。

特に明るいM型矮星であるK2-155のまわりには3つのスーパーアースが見つかり、このうち一番外側の惑星K2-155dは惑星と恒星が適度に離れているため、表面に液体の水が存在する可能性があることが分かった。

また、これまでよく分かっていなかった低温な恒星を周回する惑星についてその特徴を調査したところ、惑星半径など太陽に似た恒星を周回する惑星の特徴とよく似ていることが分かった。

研究成果は、2月23日発行の米国科学誌「Astronomical Journal (アストロノミカルジャーナル)電子版」に掲載された。

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研究成果

研究チームは、NASAのケプラー宇宙望遠鏡が行っている探査ミッション「K2」で取得したデータを解析し、惑星が恒星の前を通過して食を起こす(トランジット)手法で、惑星候補を持つ低温な恒星(M型矮星)を数十個同定した。さらに、それら惑星候補を持つ星々に対して、ハワイのすばる望遠鏡、スペインの北欧光学望遠鏡、岡山天体物理観測所の188cm望遠鏡などを用いた地上からの追加観測を実施し、新たに10個の低温な恒星を周回する計15個の惑星を確認した。これほど多くの系外惑星を一度に発見したのは国内では初めてだ。このうち、明るいM型矮星である恒星K2-155は、3つのスーパーアースを持ち、特に一番外側、地球半径の約1.6倍の半径を持つ惑星K2-155dはハビタブルゾーン付近に存在することが判明した。このためK2-155dは、中心星から受け取る輻射エネルギーの大きさと大気組成によっては、表面に液体の水が存在しうる温暖な気候を持つ可能性がある(図1)。K2-155はトランジットする惑星を持つM型矮星の中でも、可視光線で最も明るい恒星の1つであるため、今後も惑星質量の精密測定や大気の探査等を行う上で、格好のターゲットとなる。また研究チームは新たに見つかった惑星を含む、M型矮星を周回する惑星の特徴について詳細に調べた。その結果、(1) 半径が1.5~2.0地球半径の惑星が統計的に少ないこと(図2)、(2) 周期2日以内には大きめの惑星(2地球半径以上)がほとんどないこと、(3) 3地球半径を超える巨大惑星は金属を多く含む恒星のまわりにのみ存在するなど、太陽型の恒星まわりで見つかっている惑星と似た特徴を持つことを突き止めた。

このことは、太陽よりもずっと低温な恒星を周回する惑星が、太陽型の恒星を周回する惑星と同様の物理過程を経て、形成・進化してきたことを示唆しており、惑星形成メカニズムを解明する上で極めて有益な情報となる。

研究の背景

これまで見つかっている系外惑星の90%以上は太陽に似た星(太陽型の恒星)のまわりで発見されている。一方、我々の銀河系に最も多く存在する恒星は質量が太陽の約6割に満たない低質量・低温の恒星(M型矮星)であるが、一般に暗いためにあまり探査が進んでいなかった。東京工業大学 理学院 系外惑星観測研究センターでは、系外惑星の特徴と起源の解明のため、低温な恒星の観測による系外惑星探査を実施していた。

今後の展開

低温な恒星を周回するトランジット惑星は、今回新たに加わった惑星を含めても100個あまりしか見つかっておらず、すでに数千個が見つかっている太陽型恒星を周回するトランジット惑星に比べると、まだその素性は謎に包まれている。K2ミッションは進行中で、今後も多くの低温な恒星でトランジット惑星が見つかると期待される。また、今年4月にはNASAの次世代トランジット系外惑星探索衛星"TESS"の打ち上げが予定されており、明るい恒星を中心に全天でトランジット現象を利用した探査が実施される。東京工業大学 理学院 系外惑星観測研究センターでは引き続きK2、TESS等の衛星ミッションと連携し、ハビタブルゾーン内の地球型惑星を含め、多くのユニークな系外惑星の発見を目指していく。


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図1.K2-155dの気候モデル計算の結果(※地球と同様の大気を持つ場合)
K2-155dが中心星から受け取るフラックス(単位時間単位面積あたりのエネルギー)は1.67±0.38太陽定数(地球が太陽から受け取るフラックス)と見積もられており、実際の値が1.5太陽定数程度以下であるとすると表面は温暖な気候となる。


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図2.これまで見つかっているM型矮星まわりの惑星の半径の度数分布
惑星半径が1.5~2.0地球半径のところに谷(ギャップ)が見られる。緑は早期M型星(温度が3,500~4,000 Kの恒星)、赤が晩期M型星(温度が3,500 K以下の恒星)に対応している。



<用語説明>

1. M型矮星 : 有効温度が約4,000 K以下の低温の恒星をM型矮星と呼ぶ。太陽は約5,800 K。

2. 太陽系外惑星 : 太陽以外の恒星を周回する惑星を太陽系外惑星(系外惑星)と呼ぶ。これまでの観測で、3,500個以上の系外惑星が確認されている。

3. スーパーアース : 厳密な定義は存在しないがケプラーミッションでは地球の1.25倍から2.0倍の半径を持つ惑星をスーパーアースと呼んでいる。質量はおよそ10地球質量以下であることが多い。

4. ハビタブルゾーン : 恒星と惑星の距離が適度に離れているため、地球のように水が液体の状態で存在しうる惑星の軌道範囲をハビタブルゾーンと呼ぶ。M型矮星の場合ハビタブルゾーンは太陽型の場合よりずっと中心星に近く、比較的短周期の惑星(周期60日以下)がハビタブルゾーンに入る。

論文情報1

掲載誌 :
The Astronomical Journal
論文タイトル :
Exoplanets around Low-mass Stars Unveiled by K2
著者 :
Teruyuki Hirano, Fei Dai, Davide Gandolfi, Akihiko Fukui, 他37名
DOI :


論文情報2

掲載誌 :
The Astronomical Journal
論文タイトル :
K2-155: A Bright Metal-Poor M Dwarf with Three Transiting Super-Earths
著者 :
Teruyuki Hirano, Fei Dai, John H. Livingston, Yuka Fujii, 他31名
DOI :