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地球マントル大循環の新説「コンベアベルトモデル」を提唱

東京工業大学地球生命研究所(ELSI)の地球物理学者らは、英科学誌「ネイチャー・ジオサイエンス」(オンライン、2017年2月27日付)上で、深部マントルにベルトコンベア・システムが存在するという新たなモデルを発表しました。これは約45億年前に地球が形成されて以来ずっと、その内部で動き続けてきたものかもしれません。

大多数の地震、火山、造山作用、海洋底拡大、および地球上におけるその他の主要な地質学的活動は、いわゆるプレートテクトニクスによって駆動されています。この考え方によれば、地殻は大きな塊に分割され、まとまったブロック(プレート)として移動し、その境界では、プレート同士が衝突したり、引き離されたり、互いに重なり合ったりして、次々とすれ違っていきます。プレートの下には、厚さ3,000kmの岩石質のマントルが横たわっており、それは高温で柔軟性のある岩石で構成され、地球内深部の超高温・高圧環境の下でゆっくりと変形し、撹拌されます。この撹拌運動、すなわちマントル対流は、地球内部の熱を逃がすはたらきをしており、ゆっくりと加熱される鍋の中でシチューが循環するのに似ています。マントル対流は最終的に、地殻構造プレートの運動を引き起こします。同様にして、プレートが互いに重なり合って滑り込むため、プレートもまたマントルをかき回すように下降し、マントルを通って深遠へと沈んでいきます。

長年、科学者にとって疑問だったのは、このプレートがマントルをかき混ぜる動きと対流運動(マントル対流)により、地球のマントルが十分に混ざり合うのか、またマントルの上部と下部では組成が異なるのかということでした。従来は、プレートのいくつかが約2億年をかけて3,000kmを移動し、マントルの最底部へと沈んでいくということが、マントルというシチューが十分にかき混ぜられていることの証拠として考えられてきました。



あまり混ざっていなかった地球マントルのシチュー

本研究で科学者らは、マントルを構成する岩石の化学組成が、対流運動に影響を与えるかどうかを考察するという、新たなアプローチをとりました。中には他の岩石よりも容易に変形・移動するものが存在し、蜂蜜のような高粘度の液体とは対照的に、水のように挙動します。例えば、シチューの鍋の中に水を注いだなら、それほどかき混ぜなくてもシチューと水は混ざり合います。もし蜂蜜を注いだなら、当然ですが、蜂蜜がシチューに混ざりこむには、もっと多くの時間がかかります。より顕著な例をあげると、肉団子をシチューの中に入れた場合は、2つの要素は決して混ざり合いません。一般的に肉団子は変形が可能ですが、煮え立ったシチューは肉団子の周りを流れるだけです。なぜなら肉団子よりもシチューの方が遥かに変形しやすく、また粘度が低いからです。

地球に話を戻すと、下部マントルの岩石は、その化学組成によっては、肉団子というよりもシチューのような(あるいは蜂蜜というより水のような)挙動を示します。下部マントルの岩石が、二酸化ケイ素(SiO2、砂の主要構成要素でもある)を相対的に多く含む場合、粘度が高く、肉団子のように挙動します。一方、二酸化ケイ素が少なくなった岩石は、より壊れやすく、シチューそのものに近い挙動を示します。興味深いことに、地球の構成要素と考えられている隕石の中には、地球のマントル上部の岩石に比べ、二酸化ケイ素の含有量が高いものが多くあります。探査したマントル岩石のほとんどにおける二酸化ケイ素減少の差異を埋め合わせるには、下部マントルの岩石の中に、二酸化ケイ素が比較的多いものが含まれていなければなりません。そうだとすると地球のマントルには、二酸化ケイ素の少ない、しっかり混ざり合ったシチューと、その底部にはあまり混ざり合っていない、二酸化ケイ素に富んだ肉団子がともに存在すると考えられます。

マントルのシチューのような撹拌運動を調べるため、東京工業大学地球生命研究所(ELSI)のマキシム・バルマー研究員らは、二酸化ケイ素に富んだ強固な層を、マントル対流の数値シミュレーションに追加しました。この結果、当初与えられた成層構造の大幅な逆転が発生した後、マントルは大きなロール状の対流セル構造となり、そこでは二酸化ケイ素の少ない、もろい岩石が上部にたまり、下部マントルの中の二酸化ケイ素が多い強固なブロックの周囲を、巨大なベルトコンベアで運ばれるように循環することが分かったのです(図1)。

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図1.
十分に混ざり合わないマントル対流の様子。二酸化ケイ素が枯渇した岩石(緑色)が、二酸化ケイ素に富んだ古い岩石のまとまった領域(灰色)の周囲を循環している。これらの領域間の管を通るように、沈降するマントル(スラブと呼ばれる、青色)が下降し、上昇するマントル(薄赤色)が上に向かっている。マントル対流は、下部の高温コア(暗赤色)からの熱で主に駆動される。


太古の岩石の巨大ブロックが、アフリカと太平洋の地下に隠れている?

シミュレーションでは、このマントル対流のパターンは、地球の年齢よりも長く、数十億年にわたり安定して続きました。下部マントルにある二酸化ケイ素に富んだ高強度のブロックは、恐らく直径1,000kmを超え、長さ数万kmに及ぶ大きさで、マントルの質量の約15%を占めると考えられます。バルマー研究員らは、そうしたブロックがアフリカおよび太平洋の地下深くに、巨大なソーセージやドーナツのような形状で隠れていると考えています。

このような強固な領域の存在により、沈み込むプレートの中に、マントルの底へと沈んでいかず、中間の深さで一度滞留するものがある理由が説明できます。そうしたプレートはここで、強固なソーセージあるいはドーナツにぶつかっているのです。これらの領域が長期間安定して存在することからさらに、地表に現れた深部由来の溶岩に、地球化学的な多様性があることの説明がつきます。溶岩の一部は、地表近くの地殻が再利用されてマントルを通って循環するマントル岩石の溶解物に起因する一方、地球の創成期以来、循環や再利用プロセスを避けてきた太古の領域を痕跡として残す溶岩もあるというわけです。

対流するマントルに太古の岩石が残存していることは、多くの科学者にとって長年の謎でした。しかし二酸化ケイ素に富んだ強固な岩石と、二酸化ケイ素が枯渇した、もっとずっと壊れやすいマントルとがあまり混ざり合わなかった結果だと考えれば、この謎がようやく解明できるかもしれません。


論文情報

著者 Maxim D. Ballmer1,2*, Christine Houser2, John W. Hernlund1, Renata M.Wentzcovitch1,3,4 and Kei Hirose1
論文タイトル
Persistence of strong silica-enriched domains in the Earth's lower mantle
掲載誌
Nature Geoscience, online 27 Feb. 2017
DOI
10.1038/NGEO2898
所属

1 Earth-Life Science Institute, Tokyo Institute of Technology, Meguro, Tokyo, Japan.

2 Institute of Geophysics, ETH Zurich, Zurich, Switzerland.

3 Department of Applied Physics and Applied Mathematics, Columbia University, New York, USA.

4 Department of Earth and Environmental Sciences, Columbia University, Lamont-Doherty Earth Observatory, Palisades, New York, USA.


関連リンク

英語版Press release 20170228 press-release-BEAMS FINAL mdb.pdf

Earth Life Science Institute(ELSI) Researcher | Maxim D. Ballmer




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※世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)は、平成19年度から文部科学省の事業として開始されたもので、 システム改革の導入等の自主的な取組を促す支援により、第一線の研究者が是非そこで研究したいと世界から多数集まってくるような、 優れた研究環境ときわめて高い研究水準を誇る「目に見える研究拠点」の形成を目指している。

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