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ELSI研究者、科学ニュースを語る (No.1)

ELSI 研究者、欧州宇宙機関の太陽系外惑星新ミッションについて語る

先日、欧州宇宙機関(European Space Agency: ESA)は、2028年に打ち上げる4番目の中規模科学ミッションを選出しました。


ariel_esa.jpgImage credit: ESA

このミッションは、Atmospheric Remote-sensing Infrared Exoplanet Large-Survey missionの頭文字をとって「ARIEL」として知られています。これは太陽系外惑星、つまり太陽系の外の星を周回する惑星の大気を調査するための宇宙望遠鏡です。

ARIELは、太陽系外惑星の大気を三つの異なる方法で調べることができます。一つ目の方法は、太陽系外惑星が星の前を通る際に、その惑星の大気を通過して届く星の光を検出するものです。惑星大気の分子は異なる波長の光を吸収するため、それにより天文学者は大気中にどのような気体が含まれているかを知ることができるのです。この技術は「透過光分光」として知られています。ARIELはまた、惑星自身から来る光を見ることもできます。この方法では、惑星が恒星(主星)の後ろに来るときの光を調べます。惑星がちょうど恒星の後ろに隠れて見えなくなる直前、ARIELには恒星からの光と惑星からの光が足し合わさった光が届きます。これと、惑星が隠れて主星だけ見えているときの光を比べることで、惑星が放つ光を分析することができるのです。3つ目の方法は、惑星が恒星の周りを回っている間に惑星の異なる面が私たち見えることを利用するものです。主星と惑星の光の合わさった光がどのように時間変化するかを、色々な波長で見ることで、惑星の3次元的な構造を調べることができます。

なぜこのミッションが太陽系外惑星の研究者にとって刺激的なものなのか、科学雑誌「ネイチャー」は、ここ、地球生命研究所(ELSI)の藤井友香准教授とアフィリエイトサイエンティストでJAXAのElizabeth Tasker准教授にインタビューしました。

太陽系外惑星の研究は、日本でもすでに大きな関心の的になっています。ハワイのすばる望遠鏡や岡山天体物理観測所でも、太陽系外惑星の探査が行われています。また日本は、太陽系外惑星を主な研究対象の一つとした30メートル望遠鏡 (TMT; 2020代に完成予定)の協力国の一つでもあります。

太陽系外惑星大気の将来観測は、ELSIの研究者にとっても心躍るものです。藤井とTaskerが以下に強調している通り、惑星大気の組成は、その成り立ちや現在起こっている地質学的プロセスの詳細を明らかにしてくれるかもしれないのです。そのようなプロセスはどのようなものなのか、またそれは生命の発生にどう関係するかということは、ELSIの主要な研究テーマです。そのため、太陽系外のデータが多く得られるということは、は非常にエキサイティングなのです。ユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(英国)の惑星科学者で、ARIELのPIでもあるGiovanna Tinetti教授は、ELSIを訪問し、ARIELによる観測とELSIでの研究の関連について議論しています。Tinetti博士は、「ARIELは、太陽系外惑星が何でできているのか、どのように形成し進化するのかについて全容を示してくれるかもしれません」と「ネイチャー」に語っています。

ネイチャーの記事はこちらをご覧ください。以下は藤井とTaskerのインタビューの詳細です。

すでに多くの太陽系外惑星探査が計画・進行中ですが、ARIELは太陽系外惑星研究においてどのような位置をしめるのでしょうか?

Tasker:
太陽系外惑星観測は二つのタイプに分類できると思います。一つは太陽系外惑星の統計的な性質について教えてくれる観測。このタイプの観測からは恒星が持つ惑星の数、そしてそれらの軌道やサイズの情報を得ることができます。


ETasker2NE.jpgDr. Elizabeth Tasker (Photo credit: Nerissa Escanlar)

ケプラー宇宙望遠鏡、チリのLa Silla望遠鏡、岡山惑星探索プログラム、そして今後行われるTESS、CHEOPSやPlatoのような宇宙ミッションはこのタイプの調査の例です。これまでに素晴らしい結果をあげています。これらの観測は、我々の太陽とは大きく性質の異なるものも含め、さまざまな恒星の周りで惑星は普遍的に形成されるということを教えてくれました。また、惑星の大きさや軌道は実に多様で、そのうちほとんどのものは太陽系に類似したものがないということがわかりました。こうした観測のおかげで、宇宙の中で私たちの太陽系は決して孤独な存在ではない、ということが明らかになったのです。

しかし、このタイプの観測からは、個々の惑星が実際にどのような姿なのかについて詳しく知ることはできません。個々の惑星について得られる情報量は少なく、全体の大きさやその惑星がうける放射量(恒星からの光)に限られます。そのため、こうした観測では惑星表面のコンディションを知ることはできず、惑星形成のついて得られる手掛かりは限られます。

二つ目のタイプはARIELのようなミッションです。ARIELは太陽系外惑星の大気の観測に完全に特化した最初の望遠鏡です。惑星大気の組成は、その惑星がどのように形成されたか、また (岩石惑星については)惑星表面でどのようなプロセスが起こっているかということに関連しています。つまり、惑星は、(惑星が恒星に与える影響を見ることで間接的に惑星を検出するタイプの観測における)「影」(NASAゴダードのAki Roberge博士が使っていた言葉です)としての存在から、私たちの地球のようなさまざまな惑星科学的プロセスが起こる実際の存在として姿を表すのです。そしてそのプロセスを調べることこそが、ELSIの主要な研究テーマなのです。

藤井:
トランジット系外惑星の大気の分光観測は、太陽系外惑星を特徴付け、その形成と進化についての手がかりを得るための新しい可能性を開きました。

こうした大気のデータはすでにハッブル宇宙望遠鏡やスピッツァー宇宙望遠鏡、そして地上大型望遠鏡によって得られていますが、十分な精度のあるデータが得られているのは比較的少数の惑星に限られています。今後、2019年には、新しくJames Webb宇宙望遠鏡 (JWST)が打ち上げられ、トランジット系外惑星の大気の特徴を明らかにするうえで重要な役割を果たすと期待されています。2020年代以降には、次世代の地上超大型望遠鏡も太陽系外惑星の観測に使われ始めるでしょう。この中の一つは、日本も関わっている30メートル望遠鏡 (TMT)です。


yukaNE.jpg藤井友香准教授 (Photo credit: Nerissa Escanlar)

日本のすばる望遠鏡を含む地上望遠鏡では、系外惑星を観測するために、トランジット系外惑星の観測と補足的な方法も用いられています。それは、十分明るくかつ主星から遠い惑星から直接届く光を観察するものです。JWSTや次世代の超大型望遠鏡でも同様の技術が用いられるでしょう。

しかし、これらはすべて汎用で多目的の望遠鏡です。太陽系外惑星に充てられた観測時間は限られていて、観測装置は必ずしも太陽系外惑星の観測に特化したものではありません。例えば、JWSTでは、1回のトランジットで幅広い波長帯で分光観測することはできません。

一方で、ARIELは太陽系外惑星ミッションに特化していて、約1000個の惑星を観測します。惑星システムは非常に多様なので、それらの惑星の大気や惑星形成と進化の経路について統一的見解を形作るためには、このように多くのサンプルを得ることが重要なのです。

これまでのデータはすでに、未解決の疑問を提示しています(例えば、大気中の分子による吸収の特徴が顕著に見られるものとそうでないものとがあるのはなぜなのか、など)。惑星大気の構造の多様性は十分理解されていません。ARIELがサンプルする多数の惑星は、より多くの手掛かりを与えてくれるでしょう。ARIELのこうした可能性に期待しています。

ARIELは太陽系惑星外のハビタビリティについての考え方に影響を与えるでしょうか?

Tasker:
現在の太陽系外惑星の探査が教えてくれたもっとも大きな発見の一つは、惑星は本当に動くということだと思います。軌道は変化し、惑星は誕生した場所から移動するのです。これは、大きな惑星(スーパーアースや木星サイズの巨大な惑星)が星の近くに存在することから分かります。恒星の近くは灼熱の世界で、惑星を形成できるような物質が十分ないため、その場で惑星を形成するのは難しいのです。しかし、これにより重要な結論が導かれます。単にある惑星が地球サイズで私たちが太陽から受け取っているのと同じくらいの放射を受け取っている(つまり、その惑星がいわゆる「ハビタブルゾーン」にある)からといって、その世界が地球に似ているという保証はどこにもないのです。

その好例として、TRAPPIST-1という恒星の周りの惑星系があげられます。これらは、半径と質量のどちらも測られている(全体としての密度が推定できる)という点で、際立った存在です。これらの惑星の密度は、海王星のようなガス惑星と地球のような岩石惑星の間にあり、このことは、これらが水を豊富に含んでいる可能性を示しています。このことと、これらの軌道が特異な共鳴関係を持つということを合わせて考えると、これらは星からより離れた場所で形成し、そのあと内側の軌道へ移動して行ったということが考えられます。しかし、このようなガス惑星の巨大コアに類似した表面を持つ惑星でも、(例えば炭酸循環や磁場のような)地球上で生命を支える地質学的プロセスは起こるのでしょうか?

ARIELの主なターゲットの一つは、恒星の近くを回る熱い惑星です。これらはハビタブルであるには温度が高すぎますが、それらの惑星もより低温で離れた場所から内側に移動してきたのかもしれません。それらの大気を調べることにより、その惑星誕生の場所や惑星システムの進化についての手掛かりを得られるのではと期待しています。これは移動する惑星たちが何でできているのかや、そこで起こる地質学的プロセス、そして生命にとって鍵となる物質----たとえば水----がどのように惑星に運ばれるのかについて(例えば太陽系では、地球は水のない状態でできて、そののち、現在の彗星や小惑星のような氷でできた物質が降り注いだと考えられています)、ヒントを与えてくれるでしょう。

藤井:
惑星科学者にとって重要なのは、その惑星に生命が住めるかどうかということだけではありません。宇宙に何があるのか、単純に知りたいのです。

温暖な地球サイズの惑星は、ARIELのターゲット層の端の方です。ARIELによる観測の、ハビタブルな世界へのインパクトは間接的なものかもしれません。ARIELでより大きな惑星の特徴を理解することにより、私たちは、それらの形成と進化について、またそれと様々な惑星系の特性(惑星の大きさ、恒星の種類、惑星系の全体的な構造など)との関係について学ぶことができるでしょう。

このことは、究極的には、ハビタブル惑星候補が本当にハビタブルか、ということにも影響します。惑星の現在の表層環境は、それがどのように形成され、進化してきたかに深くかかわるからです。「ハビタブルゾーンの地球サイズの惑星」は必ずしもハビタブルではありません。ある惑星が、どこでどのような物質から形成されたか、 過去から現在まで恒星から惑星に注ぐ光がどのようなものであったか、こうしたことが全てその惑星の現在のハビタビリティに影響するのです。ARIELで、より大きな、より高温の惑星を多数観測し、それらの特徴を明らかにすることによって、これらの手掛かりが得られるかもしれません。加えて、ARIELで得られるデータと共に太陽系外惑星のデータ解析の技術が発展すれば、より小さなより低温の(より "ハビタブル" な可能性の高い)惑星の将来観測にも役立つでしょう。