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82 自分のマスターは科学だけ?

orchestra_177445016.jpg科学者として私たちの多くは、学問的な環境で着実なキャリアを積み、成功と楽しみを得ることを夢見る。また地域社会に足跡を残し、人類全体にとって有益な知識の向上に貢献したいと考えている。しかし、これは一人では達成不可能だ。歴史を振り返ると、才能があり社会に貢献した科学者が厳しく批判されたり、無視されたり、忘れられたりした例が山ほどある。 ELSIでは、これは絶対に避けるべきだ。

クラシック音楽の例を引きたい。私は何年もの間クラシック音楽を大いに愛していた。他のジャンルが好きになり一次的に興味が薄れたが、最近またクラシックを聴くようになり、私が最も感銘を受けた作曲家はAnton Brucknerだという結論に達した。Wolfgang Amadeus Mozart(モーツアルト)やLudwig van Beethoven(ベートーベン)のような現代作曲家としては知られていないが、この身分の低いオーストリア人マスターは、権威あるウィーン音楽院で音楽教授になることができた。Brucknerは、熟練したオルガン奏者として国際的に高く評価され、彼の演奏にはいつも大勢の聴衆が集まった。作曲家としては、9つの交響曲でよく知られている。そのうちの第9曲目は悲しいことに未完成のままだが、亡くなる前に驚くほど完成に近い形にしていた。交響曲はどれも壮大で、均整のとれた構成の叙事詩であり、その豊かな編成は何度も私を魅了する。

彼の交響曲は間違いなく最も偉大かつ大胆な作曲であるが、当時の観客に否定された。ウィーンではなくライプツィヒでの第七交響曲の初演を除き、他のすべての作品は厳しい批判を受け、Brucknerにしばしばうつ病の危機をもたらしたという。彼は自信喪失に悩まされ、後に交響曲の多くを改訂するようになってしまった。彼の人生最後の7年間を捧げたにもかかわらず、改訂の連続により、第九交響曲の作曲を妨げる原因となった(第九が彼の最高傑作であるのは間違いない)。しかし、挫折を経験したが、この作曲家は完全には希望を失わなかった。本当に自分自身と自分の能力を信じることを止めず、今日の私たちが楽しめる傑作を作り続けた。彼の強さと確信、そして意志の力に対して、世界は彼に感謝すべきである。

自信喪失と不安に悩まされる人生というのは、Brucknerやその他の作曲家や音楽家に限ったことではない。科学者も同じような問題を抱えている。表面上はいつも順風満帆のように見えるが、しかし問題をもう少し深く掘り下げ、顕在化してみよう。成功しそうにない案件の助成金が削減されるか、すべてなくなる、論文が却下されるか、大幅な修正が必要となり、プロジェクトが遅れる。結局一貫性がないとみなされ、長年の大変な苦労の後、突如援助が打ち切られる。さらにほとんどの場合、仕事が不安定な状態が長引き、2年ごとに移転や移住を余儀なくされる。

科学者たちは一般に気まじめな連中である。「仕事をするか、それとも黙るか」という環境で勤勉に働き、短い時間で優れた論文をできるだけ多く出版しようとする。仕事のシーズンが到来したときに、ライバルと比較して少しでも良く見せる必要があるためである。中にはゴールまで到達できずに途中で投げ出す者もいる。ゴールまで到達した人にとって、その成功は自分自身の才能と熱心さだけによるものなのか、それとも偶然仲間の支援を得たか、適切な時期に適切な場所にいただけではないのか?

ELSIには、最大限に活かすべきいくつかの利点がある。作業環境はダイナミックでスタッフと研究者はお互いにとても親しみやすい。私たちのほとんどが、適切な場所に、適切なタイミングで存在していると感じている。私たち全員が科学に専念しており、Brucknerが交響曲を作曲していた時のように、謎を解明している。そして、私たち全員が、Brucknerと同様の自信喪失と不安に苦しんでいる。しかし、Brucknerは主に彼自身の悪魔を自分で対処しなければならなかったが、私たちは同僚に助けを求める。お互いに切磋琢磨することで、私たちはより良い科学を追求し、ELSIの国際的な評判を高め、お互いのスキルを強化し、次の仕事のシーズンに備えて準備することができる。