どうしたら異なる分野の研究者をまとめて、数日のうちに共通の目標に向けて一緒に働くような状態を作れるだろう?
執筆時点では、私はPiet HutやNicholas Guttenbergと一緒に企画した「Modelling the Origins of Life」という5週間のワークショップの最中である。最初の2週間(7月21日〜8月1日)はELSIで行われ、次の3週間は理化学研究所が主催し、理研のKコンピュータの隣にある神戸の惑星科学研究センターで開催される。
ワークショップの目標は、新しいアイデアを中心にコミュニティを構築することである。人工生命、生態学、理論生物学などの分野は、特定の種を限定せず、一般原則の観点から生命を研究するという長い歴史を持っている。ワークショップの考え方は(私の理解では)、これらの技術がシステム化学や理論数学などの他の分野を取り入れ、応用・拡張することだ。これにより、生命の性質を完成品としてとらえるだけでなく、その出現につながる過程を研究することができる。
科学的なプロジェクトとしては魅力的だが、この分野ではほとんど実績がないため、「どうしたらコミュニティを作れるだろう?」という興味深い社会学的な疑問が生まれる。私たちは、ワークショップをプレゼンテーションとパネルディスカッションといった通常の形態にはしたくなかった。むしろ、システム化学、人工生命、理論数学といった多様な分野の研究者を呼び、数週間の間で、一緒に全く新しい科学プロジェクトに実際に取り組みたいと考えていた。
若い頃、私は趣味として芝居をしていた(私は理由があってこの話をしているので、話にお付き合いいただきたい)。演技とはせりふを覚えるだけではない。他の俳優とも特別に親密な方法で協力しなければならない。演劇のリハーサルでは、特定のシーンを練習する時間はほんの少しで、ほとんどは時間表の最後のほうに予定されている。残りの部分は、ゲームやエクササイズなどをして過ごし、俳優間の遠慮や壁をなくす工夫をする。これにより、最終的に舞台に出るときには自然に、そして流れるように相手の役柄に対して反応することができる。
新しい科学的アイデアの発展は、芝居の中で役を作っていくことに類似しているように見える。実際に誰かと働くことは、彼らと流暢にやり取りする能力を必要とする。その能力こそ、意識的な努力をして作り上げなければいけないものなのだ。もちろん、科学者のグループに円陣を作ってストレッチやボーカル演習をさせるのは無意味だが、より知的なレベルで同様の効果を達成する方法を模索していた。
私たちが最終的に行ったことは「科学的スピードデート」と呼ばれるものだった。これは私が博士研究員として働いている東京大学の池上研究室でもともと考案されたものだ。全員がA1用紙と何本かのフェルトペンを与えられ、15分でポスターをデザインするように言われる。これが終わると、私たちは2つのグループに分かれ、グループ「A」は自分が描いたポスターに立ち、グループ「B」のメンバーがそれぞれ1人ずつ訪れていく。このペアは、3分だけポスターについて意見を交わす。鐘が鳴ると、グループ「B」の各メンバーが次のポスターに移動しなければならない。この動作をすべてのポスターを見るまで繰り返し、その後2つのグループが役割を切り替え、同様に再び繰り返す。
ポスターをデザインするのに15分の時間があるが、完璧主義者にとっては十分ではない。3分は会話を終了するには短すぎるが、会話を開始するだけなら十分だ。エクササイズによって誰もが「ウォームアップ」し、議論に参加する気持ちに切り替わる。知らない人に自己紹介し、相手に自分のアイデアを披露することで、グループ討論では必ずしも起こらない質問をする機会を与える。
私は最初、参加者はゲームのような遊びをすることに抵抗を感じ、これよりも真面目なことをしたいと思うのではないかを心配した。しかし結局誰もが楽しい時間を過ごし、多くの人が良いアイデアだと言ってくれた。私は、エクササイズが終わった後の部屋を見てみんなが小さなグループに集まり、互いのアイデアを興奮しながら話し合っているのを見て、成功を確信した。私は、この小さなゲームにより、長期的なコミュニティを形成する役割を果たせることを願っている。もしかしたら生命の起源の謎の解明に間接的に貢献したかもしれない。